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2008年1月 1日 (火)

時の娘

 年末はほぼ風邪ひきさんだったので、買い物もできず、本も入手せずで、結局また手持ちの本を読み返すお休みなのであった。。。というわけで、ジョセフィン・ティ(Josephine Tey) 「時の娘」"The Daughter of Time"

 これは歴史ミステリーというか、ある意味究極の安楽椅子探偵。「薔薇戦争」って知っています?まあ、私も過去になんか聞いたことあるなあ位なのですが、ヨーク家とランカスター家による王位争奪戦。日本で言えば応仁の乱みたいなもの?(本当か?)昔のヨーロッパ(薔薇戦争は15世紀ですかね)は、まだまだ今の国のような明確な区分けってないのですよね。イギリスとフランスもまだまだお互いを自分のものにしようと虎視眈々と狙いあっていたというか、この薔薇戦争もイギリス側のヨーク家とフランス側のランカスター家の争いなのでした。

 で、たぶん、イギリス人なら知っている?恐ろしいリチャードⅢ世。幼い甥を殺した怪物。シェイクスピアも戯曲にしているから、日本人でも知っている人も多いのかな。(私は知らなかったが・・・)

 そのリチャードⅢ世が実は甥を殺していない、真犯人はヘンリーⅦ世であるということを、怪我して入院中のグラント刑事と、アメリカから来た若者キャラダイン青年が、文献だけを頼りに、様々な伝聞情報から事実を選り分け、その死により利益を得るのは誰かという考え方で証明するという、読み応えのあるミステリーです。実際のところはまだまだ、史実としてはリチャードⅢ世が自分の甥を殺したということにはなっているらしいのですが、ヘンリーⅦ世が王位をとったチュードル朝が終わった17世紀に入ると、リチャードⅢ世は甥を殺していない、本当は名君であった説が出ているらしいのです。それを元にジョセフィン・ティが刑事的なアプローチをするのですね。

 繰り返しになりますが、このミステリーのポイントは、いかに昔の文献から「事実」を選り分けるか。いかに「伝聞」を切り捨てるか、これですね。トマス・モアとか有名人の書いた書籍も出てくるのですが、トマス・モアはリチャードⅢ世が亡くなった時にはまだ5歳なのです。彼は明らかにヘンリーⅦ世の時代、チュードル朝になってからの登場人物なのです。トマス・モアがリチャードⅢ世に関して書いたものは、完全に伝聞としか取れないわけです。そして事実そうなのでした。書かれたものはなんとなく正しいものと思ってしまいますが、テレビやインターネットの無い当時は書物がいわば広告・宣伝の手段なのですよね。それはもうカエサルが「ガリア戦記」を書いたのと同じで、彼は自分が本国を離れ戦っている間、自分のやっていることを知らせるために「ガリア戦記」を書いた訳です。そういう訳で、「書物」は政治的な動きに大きく関わるのです。ですから、「書物」は決して鵜呑みにはできないのです。

 もうひとつは「その死で利益を得るのは誰か?」。さすがですよね、ジョセフィン。論理的なのですよ。この視点で書物を読んでいくと、もう、歴史書は矛盾だらけなのです。このミステリーでキャラダイン青年がグラント刑事の手足となって、書物を読み漁るのですが、キャラダイン青年はあきれます。そして、ジョセフィンは鋭いことを登場人物に語らせます。人は常識を覆されるのが嫌いなのです。このミステリーを読むだけでもリチャードⅢ世が甥殺しをしたとはとても思えないのですが、いまだに史実では変わっていないし、疑義があるということを果たして今のイギリスで教えているのでしょうか?どうしても今までの考え方を変えられないのですね。変わることに不安を感じるのです。

 世界史は内容が盛り沢山過ぎて、全然自分のものになっていませんが、改めて勉強し直したくなりますね。

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